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札幌高等裁判所 昭和53年(行コ)1号 判決

控訴人(原告)

瀬川昌信

控訴人(原告)

瀬川金治

右両名訴訟代理人

宮永廣

向井論

被控訴人(被告)

千歳市

右代表者

東峰元次

右訴訟代理人

斎藤祐三

外一名

主文

一  控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者が求めた裁判

一  控訴人ら

「原判決を取消す。本件をいずれも札幌地方裁判所に差戻す。」との判決。

二  被控訴人

主文と同旨の判決。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次に記載するほかは原判決の事実に記載のとおり(原判決書の訂正〈省略〉)であるから、これを引用する。

一  控訴人ら

(一)  第三次処分(本件換地処分)の取消請求の訴の適法性について

1(1) 行政処分取消しの訴で審査前置が訴提起の要件と定められている場合においても、全く同じ処分について二度の審査を経る必要がないことは明らかである。ところで、第二次処分(本件仮換地変更指定処分)と第三次処分はともに土地区画整理法に基いて相前後して行われた処分であり、同法は、仮換地指定処分が換地処分の内容の予定的処分であつて、両処分が同一内容となる(仮換地が換地となる)ことを予想し、実際にも同一内容となるのが通常であり、現に第二次処分と第三次処分はその内容が全く同一である。このような場合に、第二次処分と第三次処分の根拠法条が異るために、法律形式的には別個の処分であるにしても、第二次処分について審査請求を行つた場合にも、なお第三次処分について審査請求を行うことを、その取消しの訴提起の要件であるとすることは、国民の権利救済を遅らせ、かつ行政手続の円滑な運営を妨げる結果ともなることを考えると、その正当性は疑わしい。

(2) 控訴人らが第二次処分に対する審査請求を北海道知事(件下「道知事」という。)に対して行つた以後の経過は次のとおりである。

(ア) 昭和五一年九月四日控訴人らから道知事に対して第二次処分について審査請求。

(イ) 同年一二月二四日道知事から被控訴人に対して第二次処分についての弁明書の提出要求。

(ウ) 昭和五二年二月四日被控訴人から道知事に対して第二次処分についての弁明書提出。

(エ) 同年二月五日控訴人ら第二次処分取消請求の訴提起。

(オ) 同年二月九日道知事から控訴人らに対して右弁明書副本送付。

(カ) 同年三月九日控訴人らから道知事に対して右弁明書に対する反論書提出。

(キ) 同年一一月一四日第三次処分

(ク) 同年一一月一九日道知事の第三次処分の公告。

(ケ) 昭和五三年一月一一日控訴人ら第三次処分取消請求の訴提起。

(コ) 同年八月一八日道知事が控訴人瀬川昌信の第二次処分についての審査請求を却下。

(サ) 同年八月二一日道知事が控訴人瀬川金治の第二次処分についての審査請求を却下。

右のとおりであるが、道知事は、控訴人らの第二次処分についての審査請求を、道知事が第三次処分の公告を行つたという事実を理由として、実体審査を行うことなく却下したものである。しかし右公告は道知事が行つたものであるから、道知事は右公告後せいぜい一箇月間もあれば、右却下裁決をして控訴人らにこれを通知することができたはずである。しかるに右のとおり右却下裁決は、第三次処分についての控訴人らの審査請求期間経過後になされた。そのため、控訴人らは第二次処分についての実体審査が行われないで、その審査請求が却下されることを、第三次処分についての審査請求期間が満了するまで知ることができなかつた。控訴人らが右審査請求期間を徒過するに至つたのはそのためである。それで、若し道知事が第三次処分の公告の後すみやかに第二次処分についての控訴人らの審査請求につき実体審査を行わずに却下していたとするならば、控訴人らは第三次処分についての審査請求期間内に、第三次処分について実体審査を受けるために、直ちに道知事に対して審査請求を行つたであろうということができる。このことは控訴人らが第三次処分についての審査請求期間内に第三次処分の取消を求める本件訴を提起していることからも明らかである。

(3) 右(1)、(2)に述べた点を合わせて考えると、控訴人らが第三次処分について道知事に対する審査請求を経ることなく、その取消請求の訴を提起したことについては、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)第八条第二項第三号にいう正当な理由があるというべきである。

2 前記1(2)のとおり、第二次処分について控訴人らから道知事に対する審査請求がなされ、これについて被控訴人から弁明書の提出、控訴人らから反論書の提出がなされ、道知事による第二次処分の適否の審査が行われていた昭和五二年一一月一九日に、審査庁である道知事によつて第三次処分の公告が行われたのであるから、右公告が行われたことによつて、第二次処分の適否についての審査庁の見解を認識することができ、審査請求に対する審査庁の否定的回答があつたものとみなして差支えないものというべきである。

3 被控訴人の立論によると、仮りに第三次処分の公告前に、第二次処分についての審査請求に対する道知事の、請求棄却の裁決がなされていた、とすれば、その場合には、第三次処分の取消請求の訴の提起について、あらためて審査を経る必要がないとされるようであるが、本件のように、第二次処分についての審査請求に対する裁決が遅れているうちに第三次処分の公告がなされた場合には、控訴人らとしては、自らの権利救済の遅滞と行政庁に繁雑さを強いる結果を承知のうえで、全く同じ内容の処分についての審査請求を同一行政庁に対してしなければならないことになり、審査庁の裁決が早く行われるか否かによつて、不均衡が生じる結果となる。行訴法第八条第二項第三号は、審査庁の裁決の遅れから生じる右のような不均衡を、実質的な見地から是正し、均衡を図ろうとする趣旨をも包含する規定であると解すべきである。

(二)  第二次処分の取消請求の訴の適法性について

第三次処分の取消請求の訴が、道知事による審査を経ていなくても適法である以上、第三次処分が取消され、第二次処分の効力が復活する可能性があるから、第二次処分の取消請求の訴の利益がないとはいえず、右訴も適法である。

二  被控訴人

(一)  前記控訴人らの主張の(一)1(2)の(ア)ないし(サ)の事実は認める。

(二)  第三次処分の取消請求の訴の適法性について

1 仮換地指定処分は時系列的には換地処分に先行するけれども、換地処分前に必ず行わねばならない必要的処分ではなく、事業施行者が換地処分前に任意に行うことができる処分であり、かつ恒久的な権利関係を確定させるものではなく、換地処分の公告がある日まで効力が存続するに過ぎない処分であり、しかも、仮換地と換地とが必ずしも一致するというものでもない。一般に仮換地と換地とが一致することが多いのは、換地を定めるについて土地区画整理法第八九条が規定している基準である、いわゆる照応の原則が、仮換地を指定する場合にも適用されることに因るものであつて、仮換地が一致しなければならないものではなく、仮換地指定処分と換地処分が法律的には別個独立の処分であることには、異論をみない。したがつて、第二次処分について審査請求を経ているからといつて、第三次処分の取消請求の訴を提起するについて、第三次処分についての審査請求を経るを要しないとはいえない。

2 第二次処分についての審査請求が係属中に、第三次処分の公告がなされたことにより、第二次処分の効力が消滅したので、第二次処分についての審査請求の法律上の利益は消滅したし、かつ、仮換地指定処分についての審査請求を換地処分についての審査請求として取扱うことを認める規定はなく、また仮換地指定処分についての審査請求を換地処分についての審査請求に変更することを認める規定もないから、道知事としては、第二次処分についての控訴人らの審査請求を却下するほかはなかつたものである。

3 仮換地指定処分についての審査請求がなされてから裁決をするに至るまでには、審査庁が資料の蒐集、事実の調査等をし、さらに不服申立の理由によつては、多数関係者に対する仮換地指定の均衡、公平さ等を考慮しなければならないことが多いので、道知事が第二次処分についての控訴人らの審査請求について三箇月以内に裁決をしなかつたからといつて、裁決を行わずに放置していたとか、審査をする意思がなかつたということはできず、したがつて、第三次処分の内容が第二次処分と同じであつたからといつて、第三次処分について審査請求をしても、道知事がこれを棄却し、もしくは裁決を行わずに放置するに相違ないと断ずるのは早計である。

4 審査庁の見解が予め明らかにされていて、審査請求に対する裁決によつて原処分の是正されることが予想できず、審査請求することが無意味、不合理と認められる場合には、審査を経ないことに正当な理由があるとした下級審の裁判例があるが、控訴人らが第三次処分の取消請求の訴を提起した際には、第二次処分についての審査請求に対して、道知事の裁決はなされておらず、第二次処分の適否についての道知事の見解は何も示されていなかつたのであるから、右訴提起の際に第三次処分について審査請求をすることが無意味、不合理と認められる事情があつたということはできない。

5 右1ないし4のとおりで、控訴人らが第三次処分の取消請求の訴を提起するについて、道知事に対する審査請求を経なかつたことに正当な理由があるとはいえないから、右訴は不適法である。

(三)  第二次処分の取消請求の訴の適法性について

土地区画整理法第九九条一項によつて、仮換地指定処分の効力は、換地処分の「公告」という講学上の通知行為(観念の通知)によつて、消滅することが定められており、仮に換地処分が無効または取消されても、「公告」そのものが無効となることはあり得ず、したがつて仮換地指定処分の効力が復活することはあり得ないから、第二次処分の取消請求の訴は、第三次処分の取消請求の適否、理由の有無の如何にかかわらず、適法となることがない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一次の事実のうち(四)1を除くその余の事実はいずれも当事者間に争いがなく、(四)1の事実は、〈証拠〉によつて、これを認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。

(一)  被控訴人が施行者である千歳恵庭圏都市計画事業蘭越地区土地区画整理事業の施行区域内にある。原判決書の別紙物件目録記載(一)の土地を控訴人瀬川昌信が、同目録記載(二)、(三)の各土地を控訴人瀬川金治がそれぞれ所有していたこと。

(二)  被控訴人が右土地区画整理事業の施行者として、

1  昭和五〇年九月一一日に原判決書の別紙処分目録記載第一の(一)、(二)の各仮換地指定処分(第一次処分)をし、その頃、これを控訴人らに通知したこと。

2  昭和五一年七月九日に同目録記載第二の(一)ないし(三)の仮換地変更指定処分(第二次処分)をし、その頃、これを控訴人らに通知したこと。

3  昭和五二年一一月一四日に同目録記載第三の(一)、(二)の換地処分(第三次処分)をし、その頃、これを控訴人らに通知したこと。

(三)  控訴人らが

1  昭和五二年二月五日に第二次処分取消請求の訴を提起したこと。

2  昭和五三年一月一一日に第三次処分取消請求の訴を提起したこと。

(四)  道知事が

1  昭和五二年一一月一二日に第三次処分を含む被控訴人の換地計画を認可したこと。

2  同年同月一九日に第三次処分を含む被控訴人の換地処分の公告をしたこと。

二第二次処分、第三次処分は、いずれも普通地方公共団体である被控訴人の事務(地方自治法第二条第二項、第三項一二号、第四項、第九項、別表第二の二五の四)に係る処分であるから、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)第八条第一項但し書、地方自治法第二五六条、土地区画整理法第一二七条の二第一項によつて、右各処分の取消請求の訴は、各処分について行政不服審査法に基いて道知事に対して審査請求をし、これに対する裁決を経た後でなければ、提起できないのが原則である。

三第三次処分の取消請求の訴の適法性について

(一)  控訴人らが、第三次処分について道知事に対して審査請求をしていないことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、審査請求に対する裁決を経ていないことについて、正当な理由があるか否かについて検討する。

1  控訴人らは、道知事は第三次処分の基礎となつた被控訴人の換地計画を認可した者であるので、道知事には、第三次処分の適法性の有無を第三者的立場から準司法的に審査、判断する適性がないから、第三次処分について道知事に審査請求をしなかつたことには正当な理由がある、と主張する。よつて案ずるに、(1)右主張は、市町村が施行者である土地区画整理事業において行う換地処分について、土地区画整理法が定めている行政庁による不服の審査方法を一般的に否定するものといわざるを得ない。(2)同法第八六条第一項による換地計画についての都道府県知事の認可は、知事が同法同条項所定の土地区画整理施行者に対する監督者として、右土地区画整理施行者が定めた換地計画の当否を全体的に審査して、これをすることにより当該換地計画にこれを換地処分の基礎となしうるものとする効力を生ぜしめるものであるが、同法同条第三項によれば、同条項所定の事由があると認められるとき以外は知事は換地計画を認可しなければならないものとされている。そうだとすると、道知事が第三次処分の基礎となつた被控訴人の換地計画を認可したということは、道知事が右換地計画を全体的に審査してこれを相当としたということを意味するに過ぎず、これを具体的に言えば、道知事は、認可申請が法令に違反しているとは認めなかつたこと、右換地計画の決定手続又は内容が法令に違反しているとは認めなかつたこと、換地計画の内容が事業計画の内容とてい触しているとは認めなかつたことを意味するに過ぎない。別言すれば、道知事が控訴人の換地計画を認可したということは、個々の換地処分の基礎としての右換地計画の個別的な内容についても法令に違反する点はないという認定をしたことまで意味するものではない。(3)右のとおりであるから個々の換地処分についての審査請求に対して、道知事が適正な判断をすることを期待できないとはいえないから、控訴人らの右主張は失当であり、採用できない。

2  控訴人らは、第二次処分についての控訴人らの審査請求に対して、道知事は何らの審査を行わないで放置していて、第三次処分の公告をしたのであるから、道知事には、右審査請求に対して審査を行う意思がなかつたというべきである、と主張する。よつて案ずるに(1)第二次処分について昭和五一年九月四日に控訴人らが道知事に対して審査請求をしたこと、(2)右請求があつてから三箇月を経過したより後である同年一二月二四日に、道知事が被控訴人に対して弁明書の提出を求め、昭和五二年二月四日に被控訴人から道知事に対して弁明書が提出されたこと、(3)同年同月五日に控訴人らが第二次処分取消請求の訴を提起したこと、(4)同年同月九日に道知事から控訴人らに対して右弁明書の副本が送付され、同年三月九日に控訴人らが道知事に対して右弁明書に対する反論書を提出したこと、(5)同年一一月一九日に道知事が第三次処分を含む被控訴人の換地処分の公告をしたこと、(6)昭和五三年一月一一日に控訴人らが第三次処分の取消請求の訴を提起したこと、(7)道知事が同年八月一八日に控訴人瀬川昌信の、同年同月二一日に控訴人瀬川金治の、第二次処分についての審査請求をそれぞれ却下する裁決をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。第二次処分についての控訴人らの審査請求がなされてから、行訴法第八条第二項第一号に定められている期間である三箇月を経過した後に、道知事が被控訴人に対して弁明書の提出を求めたことは、いささか遅きに失するとの憾があるけれども、仮換地指定処分の適否、当否の判断には、単に審査請求人の従前の土地と指定された仮換地との関係のみでなく、施行地区内の他の土地についての仮換地指定に関する資料の蒐集、事実関係の調査等も行わなければならず、相当長期間を要することも巳むを得ない場合があるものと推認されるから、前記の当事者間に争いのない事実だけから、直ちに道知事に右審査請求について審査、裁決をする意思がなかつたものと断定することはできないし、第二次処分と同じ内容(第二次処分によつて仮換地に指定されたと全く同じ土地が換地とされた、という点において)の第三次処分について、控訴人らが審査請求をしても、道知事にその審査、裁決をする意思がなかつたものと推断することもできない。したがつて、控訴人らの前記主張は採用できない。

3(1)  土地区画整理法第九八条第一項に定めている「換地計画に基き換地処分を行うために必要がある場合」になされた仮換地指定処分と換地処分との関係の法的性質については、説が分かれているが、いずれにしても、右の仮換地指定処分と換地処分の内容が同じであつた場合においても、それぞれが独立した別個の行政処分であることは明らかであるから、法律上特段の定めがない以上、仮換地指定処分について審査請求をしたことを以つて、地方自治法第二五六条、行訴法第八条第一項但し書との関係で、換地処分についての審査請求をしたものとみなすことはできないし、換地処分取消請求の訴の提起について地方自治法第二五六条の適用を除外することもできない。尤も本件の場合のように、換地処分が仮換地指定処分と同じ内容(仮換地に指定されたと全く同じ土地が換地とされた、という点において)の場合に、仮換地指定処分についての審査請求に対して、その処分の内容の適否についての実体的裁決がなされている場合は、換地処分について審査請求をしても審査庁がどのような裁決をするかは予測できることであり、裁決による換地処分の是正を期待することはできないから換地処分に対して審査請求をすることは無意味というべく、従つてかかる場合には行訴法第八条第二項第三号所定の正当な理由があるときに該当するものとして、換地処分についての審査請求をしなくても、直ちに換地処分取消請求の訴を提起できるものと解するのが相当である。

(2)  控訴人らは、第三次処分についての控訴人らの道知事に対する審査請求期間経過前に、道知事は第二次処分についての控訴人らの審査請求に対する却下裁決をし、これを控訴人らに通知することができたはずであり、そうしたならば、控訴人らは第三次処分についての審査請求期間を徒過することなく、その審査請求をしたことは確実であつたのに、道知事が第二次処分についての審査請求に対する却下裁決をするのが遅延したために、控訴人らが第三次処分についての審査請求期間を徒過する結果になつた、と主張する。

しかしながら、控訴人らが第三次処分がなされるより前である昭和五二年二月五日に、第二次処分取消請求の本件訴を提起したことは当事者間に争いがないから、第三次処分の通知を受けた当時、既に控訴人らは第三次処分に不服であつたことが明らかであり、〈証拠〉によると、各控訴人に対する第三次処分の通知書に、右処分についての審査請求についての教示が記載されていることが認められるから、控訴人らとして、第三次処分によつて受ける違法な権利侵害の救済をなるべく早く得ようとするならば、第三次処分の通知を受けた後、速かにこれについて道知事に対する審査請求をすることができたものと認めざるを得ない。控訴人らは、右審査請求をしておきさえすれば、第三次処分についての六〇日の審査請求期間が満了した日から約一箇月余りの後には、右審査請求に対する道知事の裁決がなされなくても、行訴法第八条第二項第一号によつて、第三次処分取消請求の訴を提起することができるようになつた筈である。控訴人らが、ことさらに第三次処分についての審査請求期間満了間際まで、第二次処分についての審査請求に対する道知事の裁決がなされるのを待つてみたところで、第三次処分についての審査請求を直ちにした場合よりも、第三次処分の取消請求の訴を提起できる時期が早くなるということはあり得ない。右のとおりであるから、控訴人らが第三次処分についての審査請求期間満了間際まで、その審査請求をしないで、第二次処分についての道知事の裁決がなされるのを待つていることには、何の合理性もないものというべきである。

〈証拠〉によると、各控訴人に対する第三次処分の通知がいずれも昭和五二年一一月一五日に到着したことが認められる(したがつて第三次処分についての控訴人らの審査請求期間の満了日は昭和五三年一月一四日(土曜日)となる)こと、控訴人らの第三次処分取消請求の本件訴が昭和五三年一月一一日(右の審査請求期間満了前)に提起されたことは当事者間に争いがないが、このことからすれば、むしろ、控訴人らは、第三次処分と内容が同じである第二次処分についての控訴人らの審査請求に対して、道知事が右請求のあつた日から三箇月以内に裁決をしなかつたことによつて、第三次処分については、道知事に対する審査請求をしなくても、その取消請求の訴を適法に提起できる、との誤つた法律見解に基いて、第三次処分の取消請求の本件訴を提起したものと推認される。なお、第三次処分取消請求の本件訴提起後に、道知事によつて、第二次処分についての審査請求に対する、第二次処分の適否についての実体的裁決がなされることによつて、第三次処分取消請求の本件訴の提距の違法性が治癒されることを控訴人らが期待して、これを提起したものとは、認め難い。

したがつて、控訴人らの前記主張は採用できない。

4  控訴人らは、第二次処分についての控訴人らの道知事に対する審査請求が係属中の昭和五二年一一月一九日に、道知事が第三次処分の公告をしたのであるから、これによつて、第二次処分についての審査請求に対する、審査庁としての道知事の否定的回答(請求棄却の裁決)があつたものとみなしてよい、と主張するが、土地区画整理法第一〇三条第三項、第四項の規定及び〈証拠〉によると、右の公告は、千歳恵庭圏都市計画事業蘭越地区土地区画整理事業の施行者である被控訴人が、右事業の換地処分をしたという事実を一般に知らせる行為に過ぎず、右換地処分の適法・違法の判断は何ら含まれていないというべきであるから、控訴人らの右主張は採用できない。

5  控訴人らは、仮りに第三次処分の公告前に、第二次処分についての審査請求に対する道知事の、請求棄却の裁決がなされていたとすると、この場合には、第三次処分の取消請求の訴の提起について、あらためて審査を経る必要がないが、本件のように、第二次処分についての審査請求に対する裁決が遅れているうちに、第三次処分の公告がなされた場合には、第三次処分についての審査請求をし、その裁決を経たうえでなければ、第三次処分の取消請求の訴を提起できないというのでは、審査庁の裁決が早く行われるか否かによつて不均衡が生ずる結果となるから、行訴法第八条第二項第三号は、審査庁の裁決の遅れから生じる右のような不均衡を、是正し、均衡を図ろうとする趣旨をも含むと解すべきである、と主張する。右主張は、ひつきよう、第二次処分に対する審査請求についての裁決が第三次処分の公告前になされなかつた場合であつても、右裁決が右公告前に第二次処分の適否について実体的になされた場合との均衡上、この場合と同様に、第三次処分に対する審査請求についての裁決を経由することなく、第三次処分の取消請求の訴を提起するについて正当な理由ありとすべしというに帰するものと考えられる。しかしながら、かかる主張は、先ず、本件のような換地処分につき取消請求の訴を提起するには、その審査請求に対する裁決を経由しなければならないものとする所謂審査請求前置制度を採用した前述の法の趣旨を没却するものといわなければならない。第二次処分に対する審査請求についての裁決が第三次処分の公告前になされない場合であつても、控訴人らは第三次処分を受けたときに直ちにこれについて審査請求をすることができたし、行訴法第八条第二項第三号により所定の期間を経過しても審査庁の裁決がないときは、第三次処分の取消請求の訴を提起することができたのである。行訴法第八条第二項第一号の規定によつても、司法救済を求め得る時期が或る程度は遅れるが、これは審査請求前置制度をとる行政処分については巳むを得ないところである。そもそも行訴法第八条第二項第三号の規定には、審査請求前置制度をとる行政処分につき、審査庁の裁決の遅れによつて司法救済を求め得る時期が遅れるのを防止するという趣旨は含まれていないものと解するのが相当である。蓋し審査庁の裁決の遅れによつて司法救済が遅れるのを防止するための特別の規定として同法同条同項第一号が設けられているからである。控訴人らの右主張は、結局のところ、第三次処分につき審査請求に対する裁決を経ないでその取消請求の訴を提起するにつき正当な理由のある場合と然らざる場合との間に当然生ずべき司法救済の遅速についての相異を同法第八条第二項第三号の解釈を通じて解消せしめんとするものであつて、その不当なことは明らかである。よつて控訴人らの右主張は採用できない。

6  右のとおりで、控訴人らが第三次処分について道知事に対する審査請求をしないで、その取消請求の訴を提起したことについて、正当な理由がある、という控訴人らの主張はいずれも失当であつて採用できず、他に、右の点について正当な理由があるといえる事実があることを認め得る証拠はない。したがつて、控訴人らの第三次処分の取消請求の訴はいずれも不適法なものといわなければならない。

四第二次処分の取消請求の訴の適法性について

(一) 当事者間に争いのない前記三(二)2(5)の事実(道知事が昭和五二年一一月一九日に、被控訴人が第三次処分を含む換地処分を行つたことを公告したこと)によると、第二次処分の効力は、土地区画整理法第九九条第一項、第一〇三条第四項によつて、右の公告がなされた昭和五二年一一月一九日をもつて消滅したものといわなければならない。

(二)  控訴人らの第三次処分の取消請求の訴が不適法であることは前記のとおりであり、第三次処分についての審査請求の期間が既に満了している以上、今後、控訴人らは第三次請求について適法な審査請求をすることができず、したがつて適法な第三次処分の取消請求の訴を提起することもできないことは明らかである。

してみると、第三次処分が取消されることはないから、換地処分が取消された場合において、仮換地指定処分の効力が復活するか否かにかかわらず、第二次処分の効力が復活することはないということができる。したがつて、控訴人らの第二次処分の取消請求の訴は、訴の利益を欠くものであつて、いずれも不適法なものといわなければならない。〈以下、省略〉

(宮崎富哉 寺井忠 村田達生)

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